DECODED FASHION TOKYO SUMMIT 2015

DECODED FASHION
2015年7月9日に、東京アメリカンクラブで開催されたDECODED FASHION TOKYO SUMMIT 2015に出席しました。

そこで見聞きしたこと、体験したことからいろいろ思うところがあったので、記事として残しておくことにします。



DECODED FASHION

DECODED FASHION創設者、リズ・バセラー

DECODED FASHIONはLiz Bacelarによって2012年に設立され、ニューヨーク、ロンドン、ミラノで開催されてきて、東京での開催は今回が初めてです。日本での開催にあたってはCONDÉ NAST JAPANが旗振り役を務め、実現させています。

DECODED FASHIONの目指すところは、テクノロジーの活用でファッション業界におけるクリエイティビティやイノベーション、カスタマーエンゲージメントを加速であり、そのための活動をしていると言ったらいいでしょうかね。ハッカソンやコンペティションなどもやっています。

ファッションのコンペというと、優秀なファッションデザイナーを発掘するためのファッション(洋服の)デザインコンペといったイメージがありますが、さまざまな企業・団体とコラボして開催されるDECODED FASHIONのコンペは、デジタル時代におけるファッション業界での革新的なサービスを生み出すためのもののようです。

初開催となった東京開催でのテーマ(?)は、
Fashion in the Digital World Engaging with Tomorrow’s Consumer
でした。



◆ なぜ行こうと思ったのか(課題意識)

私はコンセントという、日本最大規模のデザインファームに籍を置きコミュニケーションマネージャー(平たくは「広報」と名乗ることも多い)をしています。
そんな環境にいることもあり、私は情報アーキテクチャ、ユーザーエクスペリエンスデザイン、人間中心設計(HCD)、サービスデザインといった分野について触れる機会が多く、また実際、私の興味・関心もそちらにあります。

また、デザイン会社に身を置きつつ、パーソナルスタイリストとしても活動しています。
そういえばこっちのブログに書いてなかったけど、最近パーソナルスタイリストとして、コラムの連載もスタートしたのでぜひ見てね♪

Rhythmoon|旅するファッションコラム
http://www.rhythmoon.com/column/regular/fashion/

そういうわけで、同時にファッションも関心のある分野です。

しかし、どうもファッションの分野では、IA、UX、HCD、SD界隈で議論されているような事柄が適用されていないというか、活用されていないんじゃないか…とうっすら感じています。
(私の感度が低いだけかもしれないし、まだまだ勉強中の身でこんなこと言うのもアレですが…)

ファッションと言ってしまうとあまりに広くなってしまうので、強いてナローダウンさせるとするならば、私の興味はファッションアイテムをどのように組み合わせて使い、人や環境に適合させるか、といったスタイリング、コーディネート面にあり、そのことを通じてどのような体験ができるか(提供できるか)、ということが関心事です。

「わー、これ組み合わせたらおっしゃれー!超可愛いー!」

みたいなことももちろん楽しいから好きなのですが、どちらかといえばそういうことよりも、アイテムそのもの、アイテムとそれを身につける人との関係、アイテムとそれを身につけた人とそれが置かれる環境との関係、さまざまなアイテムを身につけた人が複数いることで生まれるその場の相互作用といった関係性みたいなことへの関心があります。

とはいえ、スタイリングするためにはそもそもアイテムを入手(あるいは所有)しておく必要があることから、スタイリングするためにそもそもインベントリーに備えておくべきアイテムの選び方、選ぶ際の購入体験、購入後の利用方法、利用時における利用の改善方法、利用後のアイテムの処理方法…といった一連の流れそのものも、私にとっては関心のあるテーマです。

世の中の大抵の事柄はそうだけれども、ファッションも同じように、

  • 情報をどのように把握し整理するのか
  • どのように(服装を通じて)メッセージを相手に伝わるようにするのか
  • 活用しやすくするためにどのようにそのアイテムを構造化するのか
  • あるいは、アイテム単体または組み合わせによってどういう意味が作られるのか

といった点で、私にとってはファッションは情報アーキテクチャであり、

また

  • 購入前から、購入時、購入後までさまざまなタッチポイントがあり
  • さらにそのジャーニーのなかで、手にするものや身につけているものによって体験が大きく変わる、なんなら人生まで変わる

という意味で、ファッションはユーザーエクスペリエンスであり、

それをサポートするのがパーソナルスタイリストの役割なのであろうと思いつつも、私は「世の中にパーソナルスタイリストなんか要らん!全員が自分の思う通りに洋服を着こなし、最大限のすばらしい体験を得られるよう(パーソナルスタイリストにやってもらっていることを自身で再現できるよう)にした方がよい」と思っているので、そういう意味ではそれをどう仕組み化するかという意味で、ファッションはユーザーエクスペリエンスデザインであり、

さらには

  • ファッションを取り巻く環境、人々の生活スタイルが大きく変わっていくなかで、これまで製造・販売だけで成立していたかもしれないファッション業界は、本当に既存のやり方だけで成立するだろうか
  • 顧客はそれに満足しているのだろうか
  • そしてそれは顧客の価値観にフィットするんだろうかというか

というようなことを考え始めるとサービスデザインの方面にまで広がるのです(少なくとも私にとってはね)。

というわけで、今まであったようなファッションショーとかファッションジャーナリズムみたいなイベントではなく(※)、なにかしらこれまでとは違ったファッションの取り上げ方をしていそうなカンファレンスなのではないかと感じたので、今回DECODED FASHIONに参加してみたわけです。

※ 普段、一般消費者として色んなブランドのイベントにご招待いただいたり、商業施設でのイベントなどに行くことはあっても、そもそもこれまでファッションビジネス系のイベントに行ったことがなく、また私のアンテナに引っかかっていないだけかもしれないので、もしかしたら既存のもののなかにもいいものはたくさんあるのかもしれません。おすすめのものがあったらぜひ教えてください。

◆ 実際行ってみてどうだったか

で、高いお金を払って行ってみてどうだったかというと、まずはなんといっても、IA、UX、HCD、Web界隈のカンファレンスと違って(※)、会場とそこに来ている人々の多くは、着こなしがシックでそれだけで感動!

ちゃんとした人ってどこにいるのかしら…と思っていたらここにいたのね!というのが第一印象です!
(って、アホな子のコメントみたいですが、でも本当)

出席者リストを見たら、名だたるラグジュアリーブランドが並んでいたので、どんな服を着るかということ自体が、自社ブランドのレピュテーションに関わったり、あるいはビジネスに大きく影響するゆえ、他の業界よりも着るもの、身に付けるものについての配慮が行き届いているのかもしれません。

※ SD界隈(海外カンファレンスに限っていうと)はIA、UX、HCDと比べると、そこそこ身なりに気を使っていると思われる人率が高いです。(私の主観です)

それはそれとして…。

内容的にどうかといえば、私の関心事がニッチで消費者寄りなところもあってか、私の問題意識に対する直接的な回答になるようなものは見当たりませんでした。

冒頭にだらだらと書いた私の関心事、問題意識をあえて一言でいうならば「ファッションという分野において、購入体験ではなく利用体験の質を高めることはできないのか」ということになるのですが、DECODED FASHIONで扱われていた内容は、総じていえば、どうやったら多くの情報のなかで自分のブランドを見つけてもらい関心をもってもらうか、いかに買わせるかであったように感じます。企業目線のブランディングというか。

でも、それも仕方のないことだとも思います。
だって、販売というビジネスモデルである以上、いかに売って、売上を増やせるかが重要ということになってしまう。「モノ(ファッションアイテムとか)」の交換価値が顧客に提供されるものという考え方、いわゆるグッズドミナントロジックだと思うから。

⇒ グッズドミナントロジック、あるいはサービスドミナントロジックについては、コンセントのサイトに掲載している長谷川さんのコラムを参照してみてください。
http://www.concentinc.jp/labs/2014/05/the-essence-of-ux/

「いやいや、単にモノを売ってるわけじゃないですよ。何日でも取り置きできたり、広い試着室を独占的に使えたり、お買い物中もお飲み物を飲みながらソファでゆったりできるといったように、お店のなかでのユーザーエクスペリエンスもちゃんと考えてます。」

とか

「バーチャルリアリティなんかも使って色んな角度で見れたりするんです。面倒な試着なしにスマートミラーで自在にたくさんの服を試すことができますよ。色や柄の出方なんかも簡単にスイッチできちゃうんです。テクノロジーを使ってそういう体験も今は提供してるんです!」

というようなこともあるだろうけど、それってあくまで、購入してもらうために、購入のハードルを下げたり、お財布のひもがゆるくなるよういい気持ちにさせているだけのことで、結局のところ、目的・狙いはいかに買ってもらうかのための良い体験でしかないんじゃないのかな…。

◆ロボットを使った新しい購入体験のブース

会場内にはUNITED TOKYOの簡易店舗が再現され、店頭にはPepperがいて接客をしていました。
DECODED FASHION Pepper

私、実はPepper初体験!

なんだか人間味があって超可愛い。
ロボットなのに完璧さを追求してない感じで、岡田美智男先生がいうところの「弱いロボット」を彷彿とさせるところが、助けてあげなくちゃ!という気にさせてくれますw

弱いロボット (シリーズ ケアをひらく)

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ロボットの悲しみ コミュニケーションをめぐる人とロボットの生態学

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さて、このブースで体験できるソリューションがどういうものかというと、まず、Pepperが顧客と対話しながら顧客の性別、年齢層、サイズ、今着ているアイテムの色やテクスチャーなどをスキャン。そのうえで、店内にあるアイテムをおすすめしてくれるというものでした。

私もやってもらいました。年齢が27〜29歳、身長が2メートルぐらい、との診断でしたw

私もやってもらいました。年齢が27〜29歳、身長が2メートルぐらい、との診断でしたw

ここのブースではやっていなかった(か私が体験しなかっただけ?)けれど、実際のソリューションでは、Pepperの画面に表示されたおすすめアイテムが店内のどこにあるのかも、スマホアプリにより表示し、商品までスムーズに誘導してくれるようです。

店内のアイテムにはRFIDが付けられており、商品をレジに持っていくとレジ台に置いた瞬間に(バーコードリーダーの利用なしに)、画面に金額等の明細が表示されます。また、店員さんが洋服をたたんで袋に入れている間に、裏では、その購入商品にあう(Pepperとのやり取りのなかで蓄積されたデータも活用されている?)おすすめアイテムがサムネ化されてプリントアウトされていて、購入アイテムとともにそのシートがショッピングバッグに入れられます。サムネにはQRコードもついており、ECへの動線も考えられているようです。

DECODED FASHION

商品を会計代に置いた瞬間に金額の読み取りが終了。パーソナライズ・リーフレットも出力される。

ざっくりいうとそんなソリューションです。

私が体験したことだけを書きましたが、詳細はこちらをご覧いただいた方がいいかも。

サイジニア、人間ロボットやオムニチャネルでの未来のパーソナライズ・ショッピングを提唱
〜NY発、ファッションとテクノロジーの融合イベント『Decoded Fashion』で、ネットとリアルの垣根を超えた「出くわす」ショッピングを体験〜

◆ ロボットにファッションレコメンドはできるのか

アイテムがもつ特性をもとにアイテム同士の組み合わせをつくるだけであれば、それほど難易度の高いことではないように感じます。

しかし、ファッションスタイリング、コーディネートとは、色味、テクスチャー的にいい感じで組み合わせるということがゴールではないはずです。

組み合わせが優れているということだけでなく、身に付ける人がステキになる、ステキであることで自信をもつことができ行動が変わる、行動が変わることで得られる体験も全く変わる、環境にも馴染み全体として合っているというような、時間軸そして環境までが含まれます。

アイテム単体だけで考えていては成立せず、「人」と「環境」という膨大な文脈をもつ要素が常につきまとうのです。

ある組み合わせの服をある人が身につけた時には素晴らしく似合う一方で、同じものを身につけたからといってほかの人にも似合ってステキになるとは限りません。また、同じ人が同じアイテムを身につけても、やはりその人自身の内面的成長や加齢、あるいは世の中のムードといったものによって見え方は変わっていくということがあります。

ファッションとは面白いもので、流動的かつ相対的です。こうしたことをロボットが瞬時に判断できるだろうか?という疑問があります。
原理的にはできるだろうけど、ロボットが適切に判断できるだけの情報のインプットをするのが大変そうだな〜と思ってしまう。

また、もう一つ気にかかることとしては、ロボットがベースとして参照しているもの自体の正しさです。

ロボットによる「あなた好みの商品を提案します」というレコメンドは多分、外見的にスキャンしたもの(今身につけているもの)とのマッチング、あるいはこれまでの購入履歴からのレコメンドになると思われるため、もともとファッションを苦手としている人、それは”自分に似合うアイテムを上手に選べない人”と一旦言い換えますが、そうした人がもつワードローブアイテムをベースに提案がされていくことになるとすると、言葉は悪いけれど、ダサい人にはダサいスパイラルのまま、提案し続けることになってしまわないでしょうか。

DECODED FASHION Pepper

ファッションコーディネート、スタイリング、特にパーソナルスタイリングという分野においては、何か特定のアイテムを持っていたからといって人は「ステキ」になれるわけではない、ということが前提にあります。

この「ステキ」というのが抽象的かつ主観的で、「何をもってステキなのか!」という話が出てきてしまうのですが、一言でいえば、ちぐはぐでないこと。

身につける人がもつイメージと身につけるアイテムがもつイメージが一致している状態、つまり似合っているかどうか。また、それを身につけた状態で、置かれる状態にふさわしいかどうかということです。

さらに「身につける人がもつイメージ」とはこれまた厄介で、身体的特徴に限らず内面的、生活スタイルまで含んで形成されるものです。それゆえ、来店時の瞬時にロボットがそれらをスキャンするということや、本質的なパーソナライズは難しいのではないかと思うのです。

アイテムの方に限っていえば、ショップのインベントリに加える際に、手間さえかければありとあらゆるメタデータを登録しておくことが可能でしょうから、想像されうる文脈に対応可能なだけ、情報を盛り込んでおくことは可能かもしれませんが…。

レコメンデーションの限界についてさらに付け加えると、そもそものショップ選びというハードルがあります。

各ショップ、ファッションブランドにはコンセプトがあります。

たとえば「女性らしい柔らかさと凛とした雰囲気が醸しだされるスタイリングを提案」とか「仕事もプライベートも大事にしている、働く女性のためのしなやかな…」とか「強い個性をもちながら、古いものも新しい価値観もうまく取り入れて…」とかいうようなやつです。

そのブランドコンセプトは、来店したお客さんにはもしかしたら合わないということもありえます。

(とはいえ、けっこうフワッとしたコンセプトが多くて、なんというか占いのように、受け取った本人からすると「これは私向けだ!」と思えてしまう、最大公約数的なものが多いような気もするし、たいてい、どのブランドの服であっても選び方によってはもちろん使えるものを探すことは可能なんだけど…。)

Pepperが店頭でレコメンドするような場合、あくまで、その店内にあるアイテムのなかでのベストと思われるものを提案するということになるでしょうから、そもそも商品選び以前に、自分に合うブランドを適切に選べるということがお客さん側に求められることになります。

そして、洋服というのは、常にいくつものアイテムを組み合わせる必要があるもので、また大抵の場合、すでに持っている洋服との整合も考えるわけで、多くの人にとって、ワードローブを一つのブランドで完結させることはありえません。

購入時に競合製品と検討し、どれか一ついいものを買ってしばらくはそれだけを使うというような、例えばパソコンや車といった製品とは違うのです。

ショップに来てくれてからのレコメンドとなると、百貨店全体とか、街なかにあるショップ全体とか、横断的なレコメンドは難しくなってしまうという点で、ブランド囲い込みの戦略では限界が見えてしまうところがあるように感じます。

もっとも、このサイジニアによるソリューションは、複雑系レコメンドエンジンによるものなので、インターフェースをPepperに限定しなければ、囲い込みではないやり方で、横断的なプラットフォームになるという可能性はあるのかもしれません。

さて仮に、アイテム購入時のレコメンデーションがうまくいったとしましょう。実際に毎朝着替える時に、何を着るかという最終判断は今のところ人間に委ねられています。レコメンドされたベストな組み合わせを着ることにしたとしても、その日のイベントのドレスコードや出かける先の雰囲気、行動を共にする人、あるいは天気次第では、その組み合わせはベストではないかもしれません。
ドレスコードや雰囲気などもデータとして登録しておくことは可能でしょうが、そうなると無限に組み合わせを作れるはずの洋服が、一意にしか着ることができなくなってしまいそう。

洋服を選び着るということはとても創造的な活動なのです。

スティーブ・ジョブズのような人もいます。
毎日何を着るかを考えることに時間を費やすのは無駄だと考える人達です。
そういう人であればユニフォーム的に着るものを固定することは可能です。

ロボットによるレコメンドも結局は、創造的活動を支援するためのものなのか、あるいは効率を追い求めるためのものなのかによって、取り扱いが変わるのかもしれません。

◆ このソリューションの提供価値

そういうわけで、DECODED FASHIONで体験したこのソリューションは、新しい購入体験、実験的な取り組みとしては面白いと思うんだけど、正直なところ、このソリューションが提供している一番の価値がなんなのか、私には直感的には分かりませんでした。

というか、もう少し引いて考えてみると、このソリューションが…というよりも、そもそもリアル店舗というものはそもそもどんな価値を提供しているんだっけ?とさえ感じます。

もちろん、このソリューションはそれはそれで意味がないとは思いません。

レコメンドされることにより、自分では想像もしていなかったアイテムとの出会いもあるだろうし、広大なフロアをもつショップであれば、本屋さんのように商品がどこにあるか分かるだけでも大変便利です。また、原宿のファストファッションのお店のようにいつもレジに行列ができているようなお店では瞬時に会計準備が整うということだけでも十分機能するだろうと思います。

でも、それでは単なる効率化でしかなく、イノベーションというわけではない気がします。

考えていてもよく分からなかったので、本当の意味でのパーソナルショッピング体験は難しいですよね、という個人的意見を伝えつつ、現地で担当の人に率直に「このソリューションによる一番の価値はなんですか?」と聞いてしまいました。

そしたら、ダサいスパイラルのままの提案になってしまわないか?ということについては、「なるほど、言われてみれば確かにレコメンドについてはそういうこともありそうですね…」というようなこともおっしゃっていましたが、ロボットによるサービスの醍醐味についてはなんと「実は、社員を教育しなくてすむことです。」という回答が返ってきました。

えっ!
えっっ!!
えっっっ!!!

正しい言葉遣いで礼儀正しく振舞うということをはじめ、データレベルの商品知識であれば、下手な人間よりロボットの方が賢いというわけです。

な、なるほど、そこだったのか…。

確かに、お店で若い店員さんに、よく分からない日本語でタメ口で話しかけられるとか、商品について聞いても的確に答えが返ってこないとか、正直イラッとする場面はあるけれど、かといって、そこの解決って個人的には本質的とは思えないんだけどなぁ〜。

だって、ショップ店員さんの日本語が変でも、仮にガムをくちゃくちゃ食べながらとか失礼な態度で説明されたとしても、もしもその説明がとても的確かつ有益で、目からうろこのコーディネートを提案してくれたりして、それによって期待を超えるような買い物ができたり、買った服によって人生が変わるほどのいい体験ができたら、正直、そっちの方が長期的にみればいいのだから。

◆ DECODED FASHIONでのトピック、キーワード

Pepperを使ったショッピング体験のブースについて、無駄に熱く書いてしまったけれど、ところで、このDECODED FASHIONのセッションを通じて、今(デジタル時代における)ファッション業界でのホットトピックとしては以下のようなものがあるのだと感じました。

  • リアルタイム性
  • コンシェルジュカルチャー
  • パーソナライズ/カスタマイズ
  • 動画の活用
  • プロトタイピング的思考

もはやあまり覚えていないのでメモ程度だけど、それぞれについて簡単に補足すると…

リアルタイム性(POWER OF NOW)
かつて、ファッションショーなど一部の人しかみることができず、一般の人に伝播するのは、時間をかけて編集されたエディトリアルを通じてだったものが、ストリーミングにより誰もがすぐにみることができたり、ショーの時にはすでにセレブリティがそれを着ていたり、ソーシャルではすでにそれが欲しい!という状況ができていたり。そういうことにいかに対応するか。

コンシェルジュカルチャー
レスポンシブであること。購入履歴とカスタマーの行動をきちんと結びつけ、カスタマーが望むものを望む形でその時に提供する。

パーソナライズ/カスタマイズ
NORMALというカスタムイヤホンのブランドの例のように、アイテムそのもののパーソナライズ/カスタマイズということもあるし、カスタマーに共感されるように、提供するコンテンツなどをパーソナライズするということも。

動画の活用
YouTubeファッション、ラグジュアリー、ビューティ業界マネージャーのKatie Jenkinsによると、「アメリカのミレニアル世代の3人に1人は、ハウツービデオを見た上で製品の購入をしている。」とのこと。

DECODED FASHION YouTube

YouTubeファッション、ラグジュアリー、ビューティ業界マネージャーのKatie Jenkins氏によるセッション

また、ALLSAINTSのCEO、WIlliam Kimも、ALLSAINTSの従業員の平均年齢は20代半ばでこの世代は文字を読まない。そのためビデオが有効なツールになっているというようなことを言っていた。

ALL SAINTSのCEO、William Kim氏によるセッション。「ビジネスリーダーとして、私たちはデザイン思考で問題解決に取り組まなければなりません。ビジネスをデザインするということです。」とも述べていて、最も共感できるセッションであった。

ALL SAINTSのCEO、William Kim氏によるセッション。「ビジネスリーダーとして、私たちはデザイン思考で問題解決に取り組まなければなりません。ビジネスをデザインするということです。」とも述べていて、最も共感できるセッションであった。

元LINEの森川さんも、C Channelという動画のファッションマガジンをつくるという話もあったし、彼らに限らず、どのセッションでもプレゼンテーションに動画が使われていたり、カスタマーへのリーチのために動画の活用が必要であるということが盛んに言われていた。

VOGUE JAPAN編集長の渡辺三津子氏、LINEの田端信太郎氏、C CHANNELの森川亮氏によるトークセッション

VOGUE JAPAN編集長の渡辺三津子氏、LINEの田端信太郎氏、C CHANNELの森川亮氏によるトークセッション

プロトタイピング的思考
パーフェクトなものでなくてもアイディアをすぐに出してみるというマインドの必要性。

といったこと。

◆ ファッション業界は顧客中心になれるのか

上記のキーワードのほか、ブランドエクスペリエンスだけでなくカスタマーエクスペリエンス、顧客中心といった言葉もところどころに出てきたように記憶しているので、ファッション業界としてもそこへの関心は高そうです。

でも、UX、SD系カンファレンスと違って、顧客中心であるためにどのようなアプローチを取っているのかということへの言及がまだあまりなされていないという印象を受けました。

この記事の前半でも書いたけれど、ブランドの多くが販売というビジネスモデルにより成り立っているとすると、顧客中心ということについても購入体験部分までしか関わることが難しそうだなと思います。せいぜい、購入データから次回の購入へのフィードバックをするというサイクルや、店内でのビヘイビアデータの活用ということであって、顧客の価値観を含む定性的な情報まではまだまだ踏み込んでいなそう。

でも、顧客からしてみれば、購入するというのは一瞬のことであって、実際には、買ったあとにもジャーニーは続くし、むしろそちらの方が毎日の接点ともなります。

買ったその瞬間には、欲求が満たされ一時的に満足度はあがるかもしれませんが、日常それを使う時には、モノ自体への不満足や、自分に合わせた時のストレスもあるかもしれません。そもそも、いくら色んなアイテムを買ってもステキになれないという無力感は、ファッションへの関心を下げてしまうことにもなります。

今の段階でファッション業界がフォーカスしている顧客層というのは、

  • ファッションがそもそも好きでファッションリテラシーがそれなりに高い層
  • 全くファッションになど興味がなく惰性で買っている層

に限られているように感じます。

でも、本当は、

  • ファッションに興味があるけれどリテラシーが低い(自分でどうしたらよいか分からない)層
  • ファッションに興味があるのについ惰性で買ってしまう層

なんかもいるはず。

市場拡大のためには、いかに買わせるかだけでなく、ファッションリテラシーを上げ、人々が楽しく服を着る体験を通じて、結果的に賢く服を選び購入するという方向に向けた方がいいのではないか、と個人的には思ってしまいます。

単に、ラグジュアリーブランドかそうじゃないかといったブランドの立ち位置からの話や、年代や家族構成、職業といった顧客のデモグラによるセグメントではないところにもフォーカスしてサービス提供ができると、潜在的な市場を拡大することができそうだけどなぁと思うのです。

つまり、全体を通して思ったことはこういうこと。

ファッションリテラシーとタイミングの2軸でみたサービス提供の機会

ファッションリテラシーとタイミングの2軸でみたサービス提供の機会

ファッション(装い)とは教養であり、また特に欧米では多分、適切な装いができることは仕事の能力の一つとして評価されるポイントでもあるので、ファッションリテラシーの高さは育ちの良さや年収とも相関があるのではないかと思うのですが(=高収入な人は総じてファッションリテラシーも高い)、カジュアル化が進み、また旧来のビジネスとは違った方法で世に出てくるスタートアップも多い現代では、ファッションリテラシーの低さが必ずしも年収の低い層とは限りません。だからファッションリテラシーの低い人向けにサービスを打つことは、案外おいしい市場なのではないかしら。

パーソナルスタイリングというのは、けっこう高いサービスです。にも関わらず利用者がいます。それって、ちょうどこの図で「ここらへん」って書いたあたりの層に提供できているサービスがパーソナルスタイリングぐらいしかないからなんじゃないか…と思うのです。

特に、ちゃんとしたパーソナルスタイリストというのは、単にショッピングに付き合うとかいうことではなく、カウンセリングを通して、ユーザー理解のための調査をやっているとも言えるのです。どんな価値観を持っているかということをある程度把握したうえで、コンセプトを設定し、必要なものを揃え、考え方や活用の仕方までを教育する。購入したものをきちんと使えているか、使えていない場合はなぜなのかといったことの検証やその結果に合わせた改善なんかまで提案する。それらすべてはクライアントに、装いを通してすばらしい体験をしてほしいから。

そういう意味で、ファッション業界において最も顧客中心で提供されているファッション系サービスというのは、いまのところパーソナルスタイリングしかないと感じるのです。というか、「販売」ではないモデルで、ブランドとはちょっと距離を置いた第三者でなければ結局そこまでやれない、しかも現時点ではまだロボットでは代替できないということかもしれませんが。

「ここらへん」って書いた部分のなかだけで完結するも良し、既存のファッション業界が提供しているサービスに乗っけるべく、リテラシーの低い人をリテラシーが高くなるように押し上げる方策でも良し、テクノロジー、デジタルを活用して、図のなかで「ここらへん」って書いた部分のサービス(しくみ)が出てくることに期待!(超個人的な希望だけど)

何年も前から、ファッションでこんなサービス、アプリがあったらいいのにーとアイディアがあったけど、実現しようとすると何千万も何億もかかりそうで、システムでなんでもかんでも実現しようとするより、アナログの方が早いかもしらん…と思って、パーソナルスタイリングを学んだり実践したりしはじめたわけだけど、パーソナルスタイリングをやり始めたからこそ分かってきたこともあったりします。

そんなことや、UX、サービスデザインといった分野とのブリッジなどなど、DECODED FASHIONは、ファッション分野でのデザインについてさらに突っ込んで考えてみたくなる、そういう機会になったイベントでした。

なんか、この記事書いてるだけでも、もっとこの部分を掘り下げて考えたい!というのが次々に出てくる。
Never endingだね。





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